奈良の興福寺中金堂が301年ぶりに再建され6年前に落慶法要が営まれました。そして昨年6月にやっと一般公開されたので11月の秋晴れの日に参拝してきました。
その全景が次の写真です。
いわゆる絵葉書的な観光写真です。これを見れば建物の概要が分かりますし、ぜひ見に行こう、と思う人があるでしょう。つまり「観光案内」の役目を果たした写真なのです。
ところがあまりにいいお天気なので太陽と屋根の二層を逆光で撮影したのがこれです。
これは個性が前面に出た作品です。これを見て興福寺へ行こう、という人は少ないかもしれません。でも①の全景写真よりは特色があるので展覧会やコンテストには向いていると言えます。
私はプロになってからは需要のある①の観光写真を主に撮影していましたが、20数年前に写真教室で指導を始めて以降は②の作品創りに力を注いできました。(随想 第98回 「観光写真と作品」を参照)
ところが今年になってからある旅行会社の広告ページの依頼が来るようになってあわてています。それは最近の私の写真は個性が強い作品が多く、その会社は一般的な観光写真を求めているからです。
でもこの歳になってオファーをいただけるのはありがたいことなので「観光写真」について再考してみました。
観光写真とは「快晴の中で全容をはっきり捉えていて、撮影者の個性がなく誰もが行きたいと思える写真」のことを言います。これは写真の重要な分野で、プロなら当然「作品」と併せて用意していなくてはならないものかも知れません。
そこで先日の撮影実習で受講生に観光写真にもチャレンジを!と提案したところ色々な観光写真が集まりました。面白かったのは説明的要素を取り入れていながら個性的なものが数点見受けられたことです。
それならば私もというわけで中金堂をセピア調で古(いにしえ)のイメージにしてみたのがこれです。
②よりも全景が写っているので「個性ある観光写真」ができた、と思ったのですがこの写真が旅行誌に掲載されるとは思えません。どう見ても個性あふれる「私の中金堂」ですよね。
やはり観光写真に個性が入ってはダメなのでしょうか?
過去に観光キャンペーンで成功した例では「国鉄のディスカバー ジャパン」があり、JR東海の「そうだ 京都行こう」は30年を超える現役の人気シリーズです。
両社とも写真にコピーなどが加わった一大プロジェクトです。それなりに魅力ある写真があるのですが「写真だけで話す個性ある観光写真」が登場したわけではありません。
せっかくオファーをいただいた旅行社に歓迎される観光写真を提供したいし、今までの作品も撮り続けたい。さらに、コピーの力を借りなくても一枚の写真だけでその観光地を訪ねたくなるような写真も目指したいと思います。
皆さんのご意見をお聞かせいただければ幸いです。
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